きみの笑顔は、季節外れの太陽のようで
そんなに気になる?

自分にむかってため息をついたんじゃないと相手が言っているなら、放っておいてくれればいいのに。

そう言ってしまおうかと思ったけれど、思いとどまる。

きっと口にしたら、また言い合いになるし。
答えた方が、このやりとりは早く終わる気がした。

「午後から嫌いな授業ばかりだから」

彼を一瞥してから答える。

「へえ」

聞いてきたくせに、私の答えに興味はなかったのか、彼は黙った。

と思っていると、数秒後、焦りを含んだ大きめの声が隣からやってくる。

「まって、俺、すごい嫌な予感がするんやけど、今日の午後の数学って課題提出ある?」

「……うん、あるけど」

「やっぱり!!」

彼はいかにも“やらかしました”といった表情を浮かべると、「困ったなあ」と言いながら頭を抱え込む。

あまりにも慌てた様子を見せるものだから、不本意ながら私は吹き出してしまった。

「なに? もしかしてやってないの?」

「うん、すっかり忘れとった」

どうしよう、と彼は困り顔を見せる。

「どうしようって、今からやるしかないじゃん。提出は午後なんだから、お昼休みに頑張ったら?」

「『お昼休みに頑張ったら?』って、そんなあっさり言われても。一問も解いてないんやで? 昼休みだけで終わるわけないやん。あー、もうどうしよ、古田、宿題チェック厳しいのに……」

古田、とは、私たちの数学の先生だ。

ちなみに、ギョロっとした目で大きな口をしていて魚の「アンコウ」に似ていることから、多くの生徒たちに裏では「アンコウ」と呼ばれている。

「まあ、やれるところまでやって出すしかないよ」

ガラガラと教室のドアが開く音がする。

その音からわずか遅れて、担任の先生の「おはようございます」という挨拶が、教室中に響いた。

「なあ」

一度会話は終わったはずなのに、出欠を確認している間、宮本くんがもう一度隣から話しかけて来た。
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