毒舌な君の,ひどく甘い素顔
それは,その日の放課後の事だった。

筆箱を忘れて,教室にUターンした時。

教室からなにやら話し声がして,私は足を止めた。



「お前あのこ好きなんだっけ? ほら,隣のクラスの」

「えっ!? まじ!?」



男子の恋ばなのようで,ちょっと中にはいるのに気が引ける。

どうやら幸之助くんと康平くんと椛くん。

それからその他諸々の人たちの集まり。

盗み聞きするよりはと扉に手をかけたとき,私はまたピタッと動きを止めた。



「お前はいるもんなぁ~椛っ」

「……だったらなに」

「は!? そうなの? 誰っ」



え……椛くん好きな人いるの……?



『釣り合ってない』



私な訳……ない。

それに,椛くんは私のこと可愛いって言ってくれたけど,好きだったらあんなに堂々と言えない……と思う。



「「は!?……ギャハハ」」

「え!? なに!?」

「気付いてないのまっちんだけだよ……ぷくく」



クラス一能天気な男子が笑われているのを耳で聞きながら,私はそっと教室を後にする。

まっちんくん,私も気付かなかったや。

視界が,透明に揺れた。

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