君と僕との相対性理論
「そう、ゲストなのに新郎よりも気合いいれてる」


よほど親しい友人なのか、おかしそうに笑っている雪さん。


「…あの、」

「うん?」

「その…新郎様は、私を招待してもいいと言ってくださってるのですか?」


私を誘ってくれているのは、友人だから。

ハンドルを着る雪さんは、「あぁ、モモ?」と、落ち着いたように声を出した。


もも?


「いいって言ってる。けど本当に無理矢理とか、強引じゃないから」

「…はい」

「でも、僕は和夏が来てくれれば嬉しい。大切にしてる子ってみんなに紹介したいから」


雪さんの顔を見れば、綺麗な横顔が見えて。
雪さんの言葉に、すごく嬉しくて、心が温まってくる私は、ぎゅっと手を握った。


「…行きたいです」


少し微笑みながら言えば、雪さんは赤信号で車を停止させた。そして、顔を私の方に向ける。
視線が重なり、私に優しく笑い。


「じゃあ、今度は、式の時に着るドレスを見に行こうか」

「え?」

「こっちが誘ったから、プレゼントさせて」


ドレス?
プレゼントって…。


「そんな、家にありますから…!」


慌てて首を横にふれる。


「いいよ、僕がプレゼントしたいだけだから」


笑っている雪さんに、これ以上、無理に断る訳にもいかず。
黙り込んでしまうと、青に変わった信号を見た彼は、車を走らせた。

私を大切にしてるらしい雪さん…。


そんな雪さんは、〝ユキ〟や〝ましろちゃん〟と呼ばれていた。


「わ、わたしも、…」

「ん?」

「な、なにか、雪さんに贈り物を…」

「気にしなくていいよ」

「でも……、…あ、でしたら、今日の食事代は私が…」

「和夏?」


名前を呼ばれ、ぴく、と、耳が反応する。
父や兄とは違い、彼の名前の呼び方は、とても心が安らぐ。
もっと呼ばれたいと思うほど。


「対等って言っても、一応、僕は年上だし。そこはね」


そこは?


「年下の子に、お金を出させるはずないよ」

「…」

「気持ちだけ貰っとく、ありがとう」


優しい雪さん…。
私の婚約者。
雲の上の存在の、婚約者。


胸が鳴る…。
だけど、決して私を好きにはならない人。
あった初日に、壁を作った人だから…。
けれども大切にすると言ってくれた。
大切にしているから、友人にも紹介したいと…。



「わ、わたしも、」

「ん?」

「ま、」

「ま?」

「ましろさんを、大切にします…」



なにか、おかしいことを言ってしまったのだろうか。
一瞬、彼がきょとん、という顔をして。
けれどもすぐに、静かに笑った雪さんはハンドルを持ちながら「ありがとう」と呟いた。
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