君と僕との相対性理論

この人のことはよく知ってる。だって彼もこの世界では有名だから。
地位でいうと、同等ぐらいで。
ううん、きっと神楽坂の方がした。
よくパーティ会場などで見かけていた。
神楽坂が下ということは、──…私の方から断れない、関係性なんだと思う。

正座している足が痛くてここから逃げ出したいのに、凄く重くて立ち上がれない。隣にいる両親の圧が、凄く。
〝失敗するな〟という、目線が無いはずなのにあるように感じて。
着物の中で汗が流れた。



両親同士が喋っている。

西条雪が喋ってる。


誰かが私に話しかけてくるけど、失敗しないようにしか、上手く頭が回らなく。


黒い髪をして、前髪をおろし、高価なスーツを着ているどちらかと言うと大人しそうな親同士が決めた婚約者…。


逃げたい。
好きじゃない人と、結婚なんかしたくない。
私は婚約者の顔を見ないように、その人のネクタイを見ていたような気がする。



暫く時間がたち、早く終われ早く終われと、思っている最中「雪?」と、彼の母親が彼の名前を呼び。


「はい」

「ここは庭が綺麗だと、河合(かわい)さんが仰っていたわ。どうかしら?2人で散歩でも」

「そうですね、和夏さん、どうですかご一緒に」


帰りたい、と思っていると西条雪が私に話しかけているのに少し遅れ、「和夏?」と、少しトーンが違う父親の声にピク、と肩が反応した私は、慌てて顔をあげた。


「行ってきなさい」


そう言って笑う父親の顔が、怖かった。
< 2 / 20 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop