溺愛もふもふ甘恋同居〜記憶喪失な彼のナイショゴト〜
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「おはようございます」

「おはようございます。本日は立神(たつがみ)信武(しのぶ)のためにこのような場を設けて頂き、本当にありがとうございます。――どうぞよろしくお願いします」

 正午に現場入りしたのだから、厳密にはおはようではないのかも知れないが、こういうときのあいさつは何故か〝おはよう〟と相場が決まっているものだ。

 『三つ葉書店学園町店』バックヤード。
 担当編集者の茉莉奈(まりな)とともに、売り場ではなく普段は従業員らしか入ることが出来ない休憩室らしき場所へ通された信武は、正直気もそぞろ。

 自分のすぐ横。

 パンツスーツにきっちり身を包み、長い黒髪をギュッと後ろで一つに束ねているだけでも、その凛と整った顔立ちから如何にも出来るキャリアウーマンという感じなのに。
 そこへさらに黒縁の伊達眼鏡までかけた戦闘モードの茉莉奈が、相手方店長や担当者らと身振り手振りを交えながらやり取りをしている。
 信武はそれに合わせて適当に笑顔を振りまいたり会釈(えしゃく)をしたり相槌(あいづち)を打ったりしながらも、意識はすっかり上の空。

 実はここへ着くなりずっと……。
 この三週間ちょい、電話連絡やメールのやり取りぐらいで全く会えていない日和美(ひなみ)の姿を探しているのだけれど――。

 書店側とのやり取りの合間合間に、こちらからは壁に(へだ)てられていてい全く見えない店内の様子を気にする素振りを見せていたら、「サイン会会場の様子が気になりますか?」と多賀谷(たがや)からソワソワと声を掛けられた。
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