溺愛もふもふ甘恋同居〜記憶喪失な彼のナイショゴト〜
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「あ、あのっ。し、のぶ……」

 両手をネクタイで縛られたままの日和美(ひなみ)に、信武(しのぶ)が二つ目のペナルティーとして告げたのは、その不自由な手を使って信武のワイシャツのボタンを外すことだった。

「これっ、(ほど)いてくれたらもっとちゃんと出来ると思う、んだけど、な?」

 ギュッと手首同士がくっつくように拘束された現状では、信武が身に着けたワイシャツのボタンをうまく外すことが出来ない。

 ボタンホールにボタンをくぐらせるだけの単調な作業が、こんなに難しいなんて!と、思ってしまった日和美だ。

「残念ながらそれは出来ねぇ相談だなぁ」

「な、んでっ」

「あ? 何でって……。手枷(それ)自体がペナルティーだからに決まってんだろーが。それに――」

 そこで一旦言葉を止めると、すぐ間近。
 信武の胸元で答えを待つ可愛い忠犬のような日和美の頭をヨシヨシとひとしきりかき回すように撫でてから、信武が楽しそうにククッと笑った。

「お前が不自由そうに頑張ってる手つきがすげぇ可愛くて……思いの(ほか)そそられっから」

「そそっ!?」

 言葉の通り、心底楽しんでいる風な信武の表情に、日和美は頬がカァッと熱くなる。

 だって、だって……。四苦八苦する自分の姿にそそられるとか……。
 『どんなマニアックな性癖ですか、信武さん!』と心の中で叫ばずにはいられない。

「んなわけで頑張れ」

 日和美の心を置き去りに、信武がなおも上機嫌に自分の頭をワシワシと撫で続けてくるから。

「わ、私っ、犬じゃありませんっ!」

 その大きな手のひらの感触が存外心地よいと思ってしまったのを隠したい一心で、日和美は思わず強めに抗議して。

 言葉と同時、眼前のワイシャツをギュッと握ってしまったのは、別に何かを意図したわけじゃない。

 だけどそのせいで、やけに距離感が削られた形で信武を見上げる羽目になった日和美は、一瞬だけ信武の瞳がちょっぴり寂しそうに揺れたのを見逃さなかった。
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