それでも私は、あなたがいる未来を、描きたかった。
「それから徐々に、たわいもない話が出来るようになって。半年後には、一緒にキャンプへ行った」

「キャンプ?」

「うん。全然外に出ていないみたいだったから、ちょっとでも気分転換してほしくて」

「そっか」

その子は、頭に浮かんだ言葉を、そのまま口にした。

「その子は、幸せだね」

自分のことを想って、自分のために時間を費やし、自分のために行動をしてくれる人がいること。

それは、幸せなことだと、私は思った。

「そうかもな」

否定されると思いながら口にした言葉を、先生はあっさりと認めた。

「自分が辛い思いをしている時、窮地に陥ったとき、必ずしも自分を気にかけてくれる人がいるとは限らない。そういう意味では、その子は、恵まれていたのかもしれないな」

まあ、俺が優しかっただけだけど、とやっといつも通り笑った先生に少し安心しつつ、「はいはい」と軽くあしらう。

「2泊3日でキャンプに行ったんだけど、一緒にテントを立てたり、ご飯を作ったり、のんびり過ごしたりしているうちに、初めて、その子からも話しかけてくれるようになったんだ。
そして、最終日の夜、自分から話してくれた。どうして学校に行きたくないのか。自分は今、どういう気持ちなのか、本当はどうしたいのか」

一言一言かみしめるように、先生は言った。

「それで、最後に言ってくれたんだ」

“もし、翔太くんみたいに寄り添ってくれる先生がいたら、学校に行きたかったな、って”

先生は、きっとその子が口にした言葉と全く同じものを、私に伝えた。

「その言葉が、先生を目指すきっかけになった」

もちろん、前から少しは興味があったけど、と先生は付け加える。

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