それでも私は、あなたがいる未来を、描きたかった。
「お母さん、お願いだから、変なこと、言わないでよね」

面談開始5分前。

普段よりも少し濃いメイクでオフィスカジュアルの服装でやってきたお母さんに念押しをする。

「はいはい、わかっているってば」

「絶対にわかってないじゃん……」

あまりにも軽い返事に、私は「ああ」とつぶやきながら天井を見ると、同時に教室の扉が開く音が聞こえた。


「ありがとうございました」

「……あざっした」

私の前に面談を行っていた、同じクラスの男の子とその母親が、教室から出てくる。

クラスメイトをチラッと見ると、明らかに苦悩の色が浮かんでいて、いかに面談が憂鬱だったかを物語っていた。


えー…彼、何言われたんだろう……。
私よりも成績が良くて、もちろんきっと全く問題を起こしていない、クラスの中でもかなりの優等生の彼が、あんな表情をするなんて……。
絶対私も怒られるやつじゃん……。

「嫌だなあ、もう」

ぽつりとつぶやいた私に、お母さんは「ほら、行くよ」と言いながら、私の背中を強く押した。


「吉川さん、どうぞお入りください」

教室のドアまで私たちを呼びに来た畑中先生が、ドアの一歩手前で立ち止まっていた私とお母さんに、ニコッと笑いかける。

「いつもお世話になっています」

「いえいえ」

お母さんは、普段より少し高めの余所行きの声で先生に挨拶をしてから教室へ入ると、教室の中で待っていた中野先生に、同じ挨拶をした。


「どうぞお座りください」

中野先生の言葉を合図に、私とお母さんは座る。

中野先生が、親に見せるための試験や模試の結果が書いている資料を、手元でトントンと整える。

ほんの少しの時間なのに、この無言の時間が耐えられない。

「はあ……」

自分にしか聞こえないぐらい小さな声でため息をつくと、私の目の前に座っていた先生が、コホンと咳ばらいをする。

それにつられるように顔をあげると、先生は、口パクで「だいじょうぶ」と伝えてくれた。

本当に大丈夫……?

さっき教室から出てきたクラスメイトの顔、生気が感じられなかったんですけど……。

先生に疑いを含んだ視線を投げかけると、ちょうど中野先生が「お待たせしました」と切り出した。
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