それでも私は、あなたがいる未来を、描きたかった。
「これが直近の試験結果となります。まず、高校3年生になって初めて受けた全国模試では、高校2年生の最後に受けた模試に比べて、順調に偏差値があがっています。また、中間試験、期末試験、ともに、非常に良い成績をおさめてくれました」

中野先生は顔をあげると、「頑張ったな」と笑いかけてくれた。

「あ、ありがとうございます……」

まさか、中野先生の口から、いきなり誉め言葉が出てくるなんて思わず、私は思わずどもってしまう。

チラッと畑中先生を見ると、戸惑う私の様子を面白そうに見ていた。

「特に、中間試験と期末試験では、高校2年生の時と比べると、数学の点数の向上が見られます。全国模試でも、数学の点数が伸びると、まだまだ偏差値も伸びそうですね」

「本当にねえ……数学が、問題なんですよ」

お母さんは試験結果が書かれた紙を、自分の手元へ寄せる。

「この子は、昔から、本当にどうしても数学が苦手で」

お母さんは手元の紙を見ながら続ける。

「姉は、得意不得意があるタイプじゃなくて、5教科ともすべて同じぐらいの点数を取るタイプだったから良かったのですが、この子は英語で他の教科の点数の悪さをカバーしているので、英語がこけ始めたらどうしようかと心配で……」

お母さんは中野先生に「今回、数学の点数が向上したと言っても、まだまだ他の教科よりは低いので」と困り顔を見せた。

お母さんの言葉に、中野先生は、「まあ、それはそうですね」と頷いた。

「確かに、教科ごとに得意・不得意があると、全体の成績に波が出やすいですからね。良い時と悪い時の差が激しくなるといいますか……」

その点、お姉さんは、かなり理想的な点数の取り方でしたね、と中野先生は付け加える。

「ちょうど僕、お姉さんが高校3年生の時に担任をさせていただいていましたけど、あれだけ全ての教科で同じぐらいの結果を残せるのは素晴らしかったですね」

「そうでしょう? 姉と比べると、この子はなんていうか……点数の取り方が不安定というか……とにかく、英語の出来が試験結果に直結してしまうので、親としても心配なんです。英語がダメだったらどうしようって……」

「……お母さんの仰る通りですね。心配されるお気持ち、よくわかります」

お母さんと中野先生が、同時に私を見る。

私は2人の視線に居心地が悪くなり、咄嗟にうつむいた。
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