それでも私は、あなたがいる未来を、描きたかった。
「それは……俺のこと、もう好きじゃないってこと?」

「違う! それは違うの!」

私は頭をあげ、勢いよく首を左右に振った。

「本当に、それは違う」

「それなら、どうして?」

「先生は、」

翼、ごめんね。私、酷いよね。

酷くても、傷つけても、これを言う意味はあるのだろうか。
言わないほうが、彼の為なのかな。

そんな考えが浮かんだけど、私は続けた。

「私がしんどい時に、苦しんでいたことに気づいて、そばにいてくれた人。飾らない私を、受け止めてくれた人だから」

険しい表情をする翼に、「聞いてほしいの」と私は懇願する。

「あのね、私ね、実はずっとしんどかったの」

翼、本当にごめんね。
今まで何も話してこなかったから、急にこんな話をされても驚くよね……戸惑うよね。

それでも、聞いてほしいと思った。

翼のことが大切だから……聞いてほしかった。

「私、今まで、家でも学校でも、ずっとお姉ちゃんと比べられてきたの。ほら、私のお姉ちゃん、この学校の卒業生でしょ」

翼は表情一つ変えずに、私を見つめた。

私はそれを「話を聞くよ」という合図だと勝手に解釈し、話を続ける。

「親にも学校の先生にも、なにかあるたびに『お姉ちゃんは優秀なのに、妹は……』って言い続けられてきて……。そんなこと、苦しむほどのことではないって自分に言い聞かせていたし、もう慣れたと思っていたんだけど、やっぱり本当は辛くて、悲しくて……。いつのまにか、なんかもう、何事にもどうでもよくなっちゃって」

今まで私がこんな想いを抱えて来たなんて知る由もなかった翼は、呆気にとられた様子で、けれど、黙って、私の話を聞いてくれた。

「けどね、先生は、気づいてくれたの。出逢ってすぐに、気づいてくれた。気づいて……」

どうしてだろう。
なにか胸の奥から熱いものがこみあげてきて、私は一瞬だけ黙る。

「全てに投げやりだった私を受け止めて、話を聞いて、努力を認めてくれた。自分でも思い出したくないぐらい、投げやりでダメだった私を、気づいて受け止めてくれたのは、先生だったの」

翼を見るのが、怖い。
話ながら、もしかしたらもう、翼に一番近い存在ではなくなってしまうかもしれないと思ってしまう。

そんなの嫌だけど。
嫌だけど……ここまで来たら、もう、話さないといけない。


「先生がね、話を聞いてくれたから、少しずつ自分の気持ちを受け入れて、また前を向くことが出来たの。先生が、救ってくれたから……」

だからー…。

「先生とは、距離、置きたくない」

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