それでも私は、あなたがいる未来を、描きたかった。
「失礼しますー…」

職員室のドアを開けると、中は思いの外薄暗くて、私は入るのを躊躇う。

「先生、本当に職員室にいるのかな……」

いつも先生たちが座っている机の辺りにも誰もいない。

いないのかな。いないのであれば、もう帰っちゃおうかな。
もうすぐで花火、始まるし。

そう思って職員室に背を向けようとしたとき、奥から「おお、来たか」とのんびりとした声が聞こえた。

「先生?」

「こっちこっち」

先生は、いつも使っている机とは真反対の場所に置かれている机で、手招きをしていた。

「どうしてそんなところにいるの? 座席、変わったの?」

静かな職員室をキョロキョロと見回しながら、先生に近づく。

「いや、今日限定。さっきまで、電気の交換やっていたから」

先生は、いつも座っている机の上にある電気を指差した。

「そっか」

……。
いや、そんなことを聞いている場合じゃなくて!!

「先生! なんで呼んだの!? 花火始まっちゃうじゃん!」

「このノート、2組に運んでおいて」

先生は私の嘆きを聞くこともなく、いつも通り、積み上げられたノートの束に、ポンと手を置いた。

「え、呼び出したのって、ノートを運ばせる為!?」

「そうだけど??」

驚いている私を気にせず、先生はケロリと答える。

「こんなの、全く急ぎの用事じゃないじゃん!」

思わずツッコミを入れてから、一つの可能性が頭によぎる。

これは、もしかして……。

「先生、今日花火大会あること忘れたの!?」

「え?」

ノート整理をしている先生が手を止めて私を見る。

「覚えているけど?」

「え、覚えているの!?」

覚えていて、今この用事で呼び出したの!?

「覚えているならどうしてこのタイミングで呼び出したの!? 後10分で花火始まっちゃうんだよ??」

「わかっているって」

先生は、怒り気味の私をなだめるようにコクコクと首を振りながら答える。

「俺だって花火、楽しみにしているんだよ。だからさっさと運ぼうぜ」

先生は、机の端に置いてあったノートの束を抱え込む。

「もう、どうして今なのよ。明日から夏休みなんだから、2学期になってから運べば良いじゃん」

文句を言いながらも、私も先生の隣でノートの束を抱え込む。

いくら文句を言っても、この束を運ばない限り解放されない、ということぐらいは、わかっていた。

「あのなあ」

先生が私を見下ろす。

「理系の奴らは、明日から理科の講習会が始まるんだよ」

「え、そうなの?」

「おう、任意参加だけどな」

さっき翼と話したとき、翼は明日からまた別の講習があるなんて一言も言っていなかったな。

翼は理系のはずだけど、任意参加だから受講しないのかな。

「ふうん、理系の人は大変だねえ」

完全に他人事のような返事をした私にーまあ、私は文系だから他人事なんだけどー苦笑すると、先生は「ほら、運ぶぞ!」と私の背中を押した。


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