夜桜
その夜。 私は中々寝つくことが出来ず、ただ人、自室に敷いた布団の中で天井を見つめていた。

両手を天井に広げて、ずっと眺めていた。 私の手は、血に染まってしまった。

人を殺めた事実。これは拭いきれない。

足元に転がった死体を思い出した。
私が殺めた命。あの世へ逝ってしまった人を敬う気 持ちもある。

だが、彼らを殺した自分に、そんなことを思う権利があるのだろうか。

もしもあの時私が殺されていれば、私を殺した人間は、私と同じことを思うだろうか。

事が落ち着いて、ゆっくり考えることができる今、私という人間、その周りを取り巻く 人間も、扱いが難しいことを知った。

どうやら自分が思っているよりも、それを遥かに上回ることになる。
実際に起きてみないと分からないこともある。

あんなに人を殺しておいて、今更その命を敬う気持ちができたのだから。

私という人間は、酷い人間だ。

だが、別の考え方も浮かぶ。 私が刀を抜いた理由は、仲間や私が殺さ れてしまう危険性があった。

だから、要するに私が行った行為は、正当防衛だった。
彼らは新選組の前に立ちふさがった。
我々の敵だ。生かしておけば、今頃私と一番組の命はなかったであろう。

殺されて当然だ、までとは言わない。
だがこの考えは、自分が命を奪った事実に耐えられなかった故の現実逃避なのかもしれない。私は無意識に、隣の部屋を見た。

土方副長の部屋だ。襖の隙間から明かりが漏れている。こんな夜遅くに仕事をしているのだろうか。副長の働きっぷりには、私も見習わなくてはならない。

土方副長に対する敬いの気持ちは、日を増すごとに大きくなっていくばかりだった。

土方副長や近藤局長、沖田さんも、こんな思いをしてきたのだろうか。

ならば私も耐えなくてはならない。
私は決めた。新選組に入隊することを。
ならば守ろう。 私の居場所、新選組を。
誠を守ると書いて、誠守。
この名前に従って、私が守りたいと思うものを守ろう。
私は首の傷跡に触れ、それを誓った。
< 8 / 32 >

この作品をシェア

pagetop