甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
沙也は常連客のひとりだった。

店は保に任せており、俺は定期的な報告やなにかあった際に訪れるのがせいぜいだった。

そんな折に彼女に出会った。

俺が来店しようが、保やほかの店員が話しかけても穏やかに言葉を交わすのみで、物静かに本を読む姿に興味をもった。

最初はただそれだけだった。

その後、意図せず何度か見かけるようになり、おのずと視線を向けるようになった。

沙也はいつも楽しそうに本を読んでいた。

無意識なのか、時折口角を上げたり眉を下げたり、眉間に皺を寄せたりと表情がころころ変わる姿になぜか目が離せなくなった。

いつも遅れてくる恋人を待つ彼女の穏やかな時間を守りたいと、沙也の来店時は気をつけてほしいと保に頼んだのもその頃だった。

きっとあの頃から無意識に惹かれていたんだろう。

彼女の髪がシャツに絡まったあの日、初めて言葉を交わした。

想像していた以上に華奢な体、可愛らしい声と垂れ目がちの二重の目が脳裏から離れなくなった。

強引な約束を取りつけ、仕事もそこそこに戻った際に聞こえた彼女の悲痛な声と面持ちに、強い力で胸を掴まれた気がした。

彼女を守りたい。

俺がずっと甘やかしたい。

あんな男のために泣いてほしくない。

瞬時にこみ上げた強い衝動と欲求に驚くと同時に、彼女を強く欲している自分に気づいた。
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