甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
「俺と結婚しよう」


彼が手を伸ばし、そっと私の頬に触れる。

綺麗な指を滑らせ、軽く耳たぶを弄ばれ、頬がカッと熱くなる。

衝撃的な告白に一瞬、思考が停止する。


結婚?


「からかわないでください!」


なんで今日出会ったばかりの、醜態続きの相手にプロポーズするの? 


「からかっていない。俺と正反対の自己犠牲だらけの性格に興味がわいた」


「……馬鹿にするなら私不在の場所でしてください」


腹立たしさを押し殺して告げる。

同時に口惜しさと不甲斐ない自分に嫌気がさす。

様々な感情が入り交じり視界が滲んでいく。

こんな人に自分の感情が揺さぶられるのは悔しいし、人前で惨めに泣きたくない。

気持ちを落ち着かせたくてここに来たのに、なぜこんな事態に陥っているのか。

思わず唇を噛みしめてうつむくと、突如体が長い腕に包まれた。


「落ち着け。馬鹿になんかしない。むしろ感情を必死に抑えて相手に接するお前を尊敬する。……そいつが羨ましい」


トントンとまるであやすように優しく背中を叩かれ、戸惑う。

怒りでのぼせた頭が急速に冷えていく。


「お前なら俺と真剣に向き合ってくれる気がしたんだ」


「え……?」
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