甘やかし婚 ～失恋当日、極上御曹司に求愛されました～

「俺に寄ってくる大多数の女は俺の外見や背後ばかり欲する。俺はそんな女が大嫌いで極力関わりを拒んできた。そのせいか世間での俺のイメージはとても悪い」


ほんの少し体を離した彼が、私の目尻に隠した涙を長い指で拭う。

指先まで綺麗だなんて、どこまで完璧なんだろう。


「これまで俺が関わってきた相手と真逆のお前と結婚すれば、俺のイメージも少なからず好転するだろう？」


「……つまり世間体のための、見せかけの結婚ですか？」


「いや、後継者も欲しい」


「は、い？」


「両親から後継ぎを切望されている。お前に俺の子どもを産んでほしい」


至極真面目な表情で言い切るこの人が信じられない。

真剣に求婚されたのかと、少しでも考えた自分の浅はかさを笑いたくなる。


「お断りします」


「なぜ？」


「私は響谷副社長を知りませんし、恋愛感情もありません」


「響谷郁(かおる)、三十歳、身長百八十二センチ、趣味は野球観戦。職業は名刺の通りだ。恋人はいない。お前が知りたい情報はなんでも教えるぞ？　第一、恋愛感情なんてどうなるかわからないだろう？」


額にかかる、長めの黒い前髪の下から覗く目は自信に満ちている。


「……一生を左右することを軽い気持ちでは決められません」


歯噛みしたくなる感情を必死に抑えて返答する。