甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
「響谷副社長の婚約よ」


衝撃的な返答に息を呑む。


婚約?


やはりあの求婚はからかっていただけ?


胸の奥がキリキリときつく締めつけられる。


「そう……。相手は、どんな人?」


無理やり明るい声を出して尋ねると、塔子が怪訝な表情で見返してきた。


「なに言ってるのよ、沙也でしょ?」


「えっ!?」


私?


そんなはずはない。


昨日はっきり断ったばかりだ。


「ネットニュースで朝から配信されてるのよ。まさか知らないの?」


私の戸惑いを感じたのか、親友が自身のスマートフォンをバッグから取り出し記事を見せてくれた。


【響谷副社長婚約! お相手は都内某会社勤務の女性】


さらに、どうやって撮ったのか、私が背後から抱きしめられている写真が掲載されている。

ちょうど副社長が駆けつけてきたときのものだろう。

不幸中の幸いなのは私の顔が彼の腕でうまく隠されていて、かろうじて髪型や服装がわかる状態という点だ。


「堂々と婚約宣言する響谷副社長……ってなに、この記事……なんで勤務先に関する情報まで?」


ここまで調べ上げるマスコミがすごいのか、響谷ホールディングスの知名度の高さなのか判断がつかない。

文章を思わず声に出して読む私に、塔子が肩を竦める。


「私が聞きたいわよ。なにがあったの?」


昨日の出来事を焦りながらも手短に話すと、親友の表情がみるみる険しくなる。

それから手早く自身のスマートフォンを操作して深い息を吐いた。
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