甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
「だから沙也が適任なの。レシピの検証や器具、材料の吟味とか料理が苦手で抵抗感のある沙也ならではの視点で協力してほしいの」


「頼む、倉戸」


佐多くんにも真剣な表情で言われる。

必要とされている能力がいまいち嬉しくないが、明るく答える。


「私でお役にたてるなら」


「本当? ありがとう」


「助かるよ」


ふたりは嬉しそうに頬を緩める。


「ううん、むしろ私のせいで現場を混乱させてごめんね」


「気にしなくていいわよ。むしろ上層部は今回の婚約話に大喜びよ。響谷ホールディングスのカフェレストラン計画は業界じゃ注目されてるし、多くの会社が関わりたいと狙っていたから」


響谷ホールディングスと取引を希望する企業は多い、と佐多くんが補足する。


「元々うちとは信頼関係もあるし、順調に話は進んでいたの。けれど最近になって飯野グループが横やりを入れてきたのよ」


「飯野グループってあの菓子業界最大手の?」


私の質問に、佐多くんが神妙な面持ちでうなずく。

わが社はこの業界で古株として有名だが、飯野グループは規模の大きさで知られている。

当社と違い海外にも積極的に進出し、海外企業の買収も活発に行っている。


「どこで聞きつけてきたのか、自分たちのほうが魅力的な菓子教室の提案ができるとかなんとかね。そもそもうちは料理教室を推奨してるのに」


親友が渋面を浮かべる。
< 73 / 190 >

この作品をシェア

pagetop