本気の恋を、教えてやるよ。



もしこの時、本当に突き飛ばされていたら。拒否されていたら、俺はどうしていたんだろう。


ごめんな。そう謝って、その場から逃げただろうか。


稲葉のこと、諦められたんだろうか。


──だけど、稲葉はそうしなかったから。


「……抵抗しろ、ばか」


それは本心じゃなかったけど、本心でもあった。


抵抗されたら、拒否されたらそりゃかなり傷付く。でも、そうしてくれないと、俺は単純だから。


「勘違い、しそうになる」


もしかしたら、俺の事を少しはそういう目で見てくれてるんじゃないのか、なんて。


頼むから、期待なんてさせないで欲しかった。


期待したらしただけ、裏切られた時に辛いだけだから。勝手に期待しといて、裏切られたなんて言い方、するもんじゃないんだろうけど。


そっと、押し付けるだけのキス。


触れ合っていた唇をゆっくり離せば、ぽやぽやとどこか蕩けた瞳で稲葉が俺の事を見上げていて。



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