ゆるふわな君の好きなひと

◇◇◇


 テスト範囲を教えてほしいと言われて、放課後の教室に残ったわたし達だったけど。始めてから三十分以上過ぎても、由利くんの勉強は一向にはかどらない。

 由利くんが数学の問題を教えてほしいというから一生懸命説明しているのに、彼はシャーペンを持ったままぼんやりわたしの顔を見ているだけで、全然真面目に聞いてくれないのだ。


「わかった?」

 堪りかねて訊ねると、由利くんがわたしの顔を真っ直ぐに見ながらにこっとした。


「全然」

 きっぱりとしたいい笑顔に、ガクッと椅子から落ちそうになる。


「全然って。もうこれで三回は同じこと説明してるんだけど……」

「青葉の教え方が悪いんじゃない? 晴太だったら、おれが一発で理解できるような説明をしてくれるよ」

 片肘をついた由利くんが、笑顔でそんなことを言ってくるからムッとした。

 たしかに。眞部くんは普段は部活漬けの生活を送っているのに、頭もいい。

 理系で、特に数学はいつも学年10位以内だと言っていた気がする。


「だったら、眞部くんに教えてもらえばいいのに」

 眞部くんと璃美に変な気を遣ったりせずに、マックでの勉強会に付いていけばよかったんだ。

 わざわざわたしをつかまえて放課後の教室に拘束しておいて。「教え方が悪い」って文句言うなんて、ひどい。

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