ゆるふわな君の好きなひと
「行こ、青葉」
上履きの底をペタペタと鳴らしながらゆっくりと歩みよってきた由利くんが、わたしのカーディガンの袖をつかんで引っ張る。
「え、あ、うん……」
由利くんに引っ張られていくわたしを悔し気に見てくる他クラスの女子達の視線が痛い。
あとで何か言われたら嫌だな。そう思いながら、彼女たちから顔を隠した。
「由利くん、あの子たちのことよかったの?」
「よかった、って?」
「ひさしぶりに遊ぼうって誘われてたし、仲良い子だったんでしょ」
「別に仲良くないよ。名前知らないし、前にいつ遊んだかも覚えてない。話しかけてきたから、適当に答えてただけ」
上履きの底をペタペタ引きずりながら、由利くんが無関心な声で話す。
あんなに近い距離で腕を絡めることまで許していたのに、あの子の名前も憶えてなかったんだ……。
由利くんは、話しかけてくる女の子達のほとんどをきちんと認識していない。一緒に遊んでも、顔や名前を憶える気がない。
由利くんに腕を絡めていた子はたぶん、彼のことが好きなはずだ。
あんなにアピールしてたのに、由利くんの心に一ミリも刺さってないなんて、不憫すぎる。知らない子だけど、同情してしまう。