ゆるふわな君の好きなひと
「遊ぶ約束したのにどうしてすっぽかしたの、っていきなり聞かれて。でもおれはその子の名前も知らないから、誰だっけ? って聞いたら、急に怒ってビンタされた。そのとき、ちょっと引っ掻かれたみたいな気がして痛かったかも」
約束をすっぽかしたとか、その子の名前も知らないとか。叩かれて痛かったかも、とか。
由利くんの話には適当で曖昧なところが多い。
「そういうの、よくあるの?」
そういえば、由利くんは女癖が悪いという噂を聞いたことがあるような気がしないでもない。
呆れ顔で訊ねたら、由利くんが考え込むように少し眉根を寄せた。
「んー、たまに? 俺、人の顔とか名前覚えんの苦手なんだよね。高校に入ってから女の子によく話しかけられるようになったけど、顔も名前も全然覚えられない。遊びに誘われてても内容聞かずに適当に返事しちゃうから、よく晴太に怒られる。人の話を適当に流すからトラブルになるんだ、って」
「晴太って、眞部くん?」
「そう」
由利くんがコクンと頷く。
由利くんと話すのはこれが初めてだけど(初めてなのに、状況が明らかにおかしいけど)、彼の話題に出てきた眞部くんとはわたしも何度か話したことがある。
隣のクラスでバスケ部の眞部くんは、友達の璃美の彼氏だからだ。