愛しのフェイクディスタンス


「性欲処理にもなれなくて、彼の仕事の役にも立てない、後ろ盾にもならない。妹? ふふ、聞こえはいいけれど随分なお荷物ね」

 言い返したくて、けれど何も言葉にならない。どうしてかって? 名草の言うとおりお荷物だからだ。
 家に転がり込み、仕事を与えてもらって、好きだ好きだとしつこくまとわりつく妹分。
 
(でも名草さんは……)

 例え雅人に愛情がなくとも、発言からしてビジネスパートナーにはなり得ているのだろう。

「優奈ちゃんは雅人に何ができるのかしら?」

 何もない。
 それが唯一の答えだから、優奈は口にすることができなかった。

(こんなことって、ある?)

 脳裏には無邪気な過去が描き出されていく。


 ――名草楓は、優奈が学生の頃憧れていたファッションモデルだった。
 優奈だけではない。
 まわりの友人たちも皆、彼女の身につけるありとあらゆるものを欲した。
 毎月のように雑誌の表紙を華やかに飾り、特集コーナーにも引っ張りだこ。

 いつのまにか某雑誌の専属モデルを卒業し、その後はドラマやバラエティなど、テレビで見ない日はないほどだった。
 そうして現在、そのテレビでも見かけることが少なくなっていた彼女はアパレル会社を経営する社長となっていたのか。
 そうして雅人と知り合い、肩を並べ隣に立っているのか。

(何度か有名な人とスキャンダル出てたけど……まさか、こんな)

 優奈にとっての雲の上の存在が、大好きな人と関係を持っている。
 では、その大好きな人――雅人も、やはり雲の上の存在なのか。

 太刀打ちできるものなど何ひとつない。
 "退屈な大人になりたくない"を、有言実行してみせている雅人の隣に並ぶにふさわしい女性。
 
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