愛しのフェイクディスタンス

(女の人かな、それかハウスキーパー的な?)

 どちらにしても、雅人自身は整理整頓にもそれ以前に物にも無頓着だから。彼以外の手が加わっているのは間違いない。
 昔ならその事実にもっと胸が痛んだかもしれないけれど、もう雅人だけに入れ込んでる自分ではないから。

 優奈は自分に言い聞かせながら、恐らく一番最奥にあるんだろうリビングから目を逸らし、真っ直ぐ伸びる廊下を歩く。

 艶のある白のタイルが続いて、その先にフラットな玄関。縦に長く、境目がよくわからない。立ち尽くしていると、雅人が跪くような形で優奈の足下にしゃがみ込んでいる。
 その手には見覚えのあるノーブランドのパンプス。
 この場にそぐわないソレは、もちろん優奈のものだ。
 あろうことか靴を履かせようとしているようで。

 優奈は慌てて「自分で履けます!」と、盛大に遠慮したのだった。

(油断してると幼女のままなんだわ、あの人の中の私って、気をつけないと)
 
 気を引き締めようとするも、エレベーターなど共用部分には靴で踏むことに抵抗を感じる綺麗なカーペットが引かれているし、エントランスはだだっ広く余白まみれ。中央にはライトアップされた大きな木々のアート。引き締まるというか、これは正直気が引けると表現した方が正しい気がする。

(はい、別世界)

 誰が"まーくん"なんて呼べようか。
 こんなマンションに優奈は縁がない。ゼロひとつ少ない家賃で今のアパートに住んでいるんだろう。考えれば考えるほどに再会に胸が痛くなる。

< 13 / 139 >

この作品をシェア

pagetop