幼なじみの一途な狂愛
とぼとぼと夜の街を歩く。


「最低……」

寒さがやけにしみる。

「…………って、最低なのは、私か……(笑)」
自嘲気味に、笑みが出た。


バーが目に入った。

何故か足が吸い込まれるように、梨々香はバーに入ったのだった。


「いらっしゃいませ」
「あ、一人なんですが……」
「どうぞ」

バーテンダーは優しく微笑み、カウンターに促した。

「何にしますか?」
「ごめんなさい…私、バーって初めてで……」


「じゃあ…定番のカクテルにしましょう」

カクテルをゆっくり飲む。



光昭(みつあき)!おかわりー」
奥の一つしかないボックス席に座っていた男が、カウンターにあいたグラスを持ってバーテンダーに声をかけてきた。

なんとなく、聞き覚えのある声。

その男に視線を向ける、梨々香。


「━━━━乙、哉?」
「え……え!?梨々!!?」

「うん!梨々香」
自然と笑みが出た。

「マジで!?梨々だ!!
久しぶりだな~」
「うん!久しぶりだね!乙哉、元気そう!」
「あぁ!梨々は?元気?」
「う、うん…」

「一人?」

「うん…」
「じゃあ…俺達と飲まね?」
「………いいの?」
「もちろん!梨々なら、大歓迎!」

乙哉が梨々香の腰をさりげなく支え、ボックス席に誘導した。

「乙哉、誰?この可愛い子!」
「ほんと、可愛い~」

「幼なじみみたいなもん!」
「初めまして、石蔵 梨々香です。
すみません、突然……」

「いいの、いいの!」
「俺達、男ばっかでつまんなかったし!」
「こんな可愛い子なら、大歓迎だよー」


和やかに、時間が過ぎていく━━━━━━━

「━━━━━━━てか、乙哉にこんな可愛い幼なじみがいたとはなぁー
…………世も末だな(笑)」

「だよなー!あの“氷の王子”に」
「氷の王子?
………って何?」

「うるせーよ…」
「え……お、と…や…?」
乙哉の恐ろしい雰囲気に、隣に座っていた梨々香は怯えていた。

「━━━━━あ…ごめんね、梨々!ごめん!!
それよりさ!梨々は今、何してんの?仕事は?」

「あ、OL」
「何の会社?」
「インテリア!」
「へぇー、梨々っぽいかも?
よく、部屋の模様替えとかしてたもんなぁ」

「フフ…でも、事務だけどね!乙哉は?」
「あ、俺は━━━━━━」

「梨々香ちゃんって、彼氏いんの?」

「え?あ…彼氏……ってゆうか、好きな人がいる…かな…?」

こうゆう時、何て答えるのが正解なんだろうか。
━━━━━━というより…関係が“不正解”か。

「━━━━━り?」
「……んっと、最低……」
「梨々!!」
「……っえ!?あ、ごめん……」

「どうした?ん?」
乙哉が梨々香の頭をポンポンと撫でながら、優しく微笑む。

乙哉はよく、こんな風に梨々香の頭を撫でていた。
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