幼なじみの一途な狂愛
「え?乙哉…?」

「俺は、この10年……死にそうなくらい梨々に会いたくてどうにかなりそうだった。
梨々のこと、好きで、好きで、好きで、好きすぎて……
そんな愛する女が、弄ばれた。
本当は、今すぐにでも殺してやりてぇよ!!」

「乙哉…」
「梨々だって、そうだろ?
苦しくて、苦しくて、寂しくて……最低だってわかってるのに、別れられなくて……苦しんでたじゃん!」

乙哉が梨々香の頬に触れる。

「だから……罰を下した。この“俺が”!!
梨々、無能な人間はいらないんだよ?
俺の梨々を傷つける、悲しませる、苦しませる人間は、俺が許さねぇ……!
それにあいつは“二度も”過ちを犯した。
過ちは“一度しか”許さねぇんだよ?
左遷されて、チャンスを与えられたのにな……!
ほんっと、最低・最悪なクズ!」

乙哉が、梨々香の頬を撫でる。
心底、愛おしそうに………

しかし……梨々香は、ガクガク震えていた。

初めて、乙哉の“闇に”触れた気がした。


「梨々ちゃん、大丈夫?」
乙哉とスグルが緊急の仕事の為席を外し、光昭がウーロン茶を出しながら梨々香を気遣うように言った。

「あ、うん。
私、帰るね!」
「え?でも乙哉、1時間くらいで戻るからここにいろって言ってたでしょ?
僕、梨々ちゃんのこと頼まれてるから!」

「そっか。
ここで帰ったら、乙哉に光昭くんが怒られちゃうね!」

「僕のことは、どうでもいいよ」

「え?光昭くん?」

「梨々ちゃん」

「え?」

「乙哉を、侮らない方がいい……」

「え……」

「………僕達、五人ね」

「うん」

「大学の時からの付き合いなんだけど、乙哉はとにかくモテる奴だった。
あの容姿だから、色んな女の子が集ってた。
正直、女の子を精力処理みたいに扱ってた。
でも……乙哉の肩持つつもりないけど、女の子の方も酷くてさ。“佐南 乙哉の女”っていう、ステータスみたいにしてたんだ。
それでいて、乙哉を大学では知らない人がいないくらい人気者で、その分男にはよく…喧嘩売られてた。
乙哉の凄いところは、そいつ等全員を返り討ちにするところなんだ」

「そう…なんだ……」

「でもね……」

「ん?」

「乙哉の返り討ちは、それでは終わらない」

「え……!?」

「そいつ等の親や友達にも“責任をとれ”って乗り込んでいくんだ」

「な、何…それ…」

「“今からチャンスを与えてやる。
ただし、一度だけ。
これから、誠実に生きろ!!
それを裏切ったら、もう……容赦しない。
無能は、生きてる価値がない”
だから、お前等が責任を持って監視しろって」

「………」
梨々香は、衝撃の乙哉の姿に言葉が出ない。

「それから僕達の間で“佐南 乙哉は、最強で、最高で、最悪な男”って言われるようになったんだよ。
だからスグルは、乙哉と一緒に会社を立ち上げた。
乙哉は厳しくて、自分が認めた相手にしか“情”を持たない冷酷な奴だけど、誠実で、賢いから」

梨々香を見据える光昭の優しい目が、何故か怖い。

そして光昭は、話を続けた。
「梨々ちゃんの知ってる乙哉が、どんな男かわからない。でも、少なくとも今は……梨々ちゃんの知らない乙哉だよ」
< 22 / 42 >

この作品をシェア

pagetop