唯くん、大丈夫?
てらちんはベランダに上がって私が残した軍手を片づけながら、先生らしく微笑んだ。


「…そんな心配すんな、九条。生徒のものを盗るほど落ちぶれちゃいないよ。」


「ん?何の話?」


私の素朴な疑問はお構いなしで、2人の視線はがっつり交わったまま。


「…まぁ、その辺でフラフラしてたら持ち帰って食っちゃうかもしれないけど」



てらちんの言葉に唯くんの体がグッと強張った。

てらちんは相変わらず先生らしく微笑んでる。



てらちん、何のこと言ってるんだろ?その辺でフラフラしてる食べ物って?

私は辺りをキョロキョロ見渡してみる。



「じゃーな。気をつけて帰れよー」


てらちんが背中を向けて手をあげた。



「はーい!てらちんバイバーイ!」



もうこちらを見ないてらちんに私は大きく手を振ってバイバイする。



てらちんはそのまま手をヒラヒラさせて、教室の中の方へと入っていってしまった。






「…盲点。」


さっきから動かない唯くんがボソッと呟いた。




「?」



盲点?




私の視線に気付いた唯くんが、私の手をキュッと握った。



「……いや?帰ろ。」


「うん!」
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