唯くん、大丈夫?
唯くんがいつかみたいな肉食動物の目で私の目を捉えた。




「…するよ」







「めちゃくちゃする。やだよ」





唯くんの少し怒気を孕んだ声音と、まっすぐな嘘のない目に罪悪感がつのる。




…反面、嬉しいなんて。最低。


自己嫌悪に陥る私を知ってか知らずか、唯くんが私の首の後ろに腕を回して抱き寄せる。



「…多分、優花が気になって勉強に集中できない。だから無理」

「…なるへそ」


ごもっともすぎる。

なんなら私の方が集中できなさそう。


「…でも優花は行ったほうがいい」

「へ、なんで?」

「アホだから」

「なるへそ」


それもごもっともすぎる。




それでも、唯くんと塾に行けない寂しさにしょんぼりしてるのが伝わってしまったのか、唯くんが私の頭を優しく撫で始める。



「明応大、行くんでしょ」

「…うん」

「お互い頑張って、一緒の大学いこ」



唯くんの声は、ちょっと切ない。



…そうだよね。

目の前のことばかりに気を取られてちゃいけないよね。

今が頑張りどきなんだから。



「…うん」


私も唯くんの背中に手を回すと、唯くんが私の頭にそっとキスを落とした。






また遠くの方で「海行ってー、お祭り行ってー、…」とはしゃぐ声が聞こえる。







もうすぐ、


唯くんに毎日会えない夏休みが始まってしまう。


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