唯くん、大丈夫?

妄想デート。


「それでね、今日初めてノートをちゃんと全部取れたんだよ!凄いんだよ!私のノート見てほしい!!」


「…ふーん。よかったね」


電波に乗って、唯くんの声が耳元で聞こえる。

まるで興味なさそうな声。

それでも私は嬉しくて、「うん!」と元気はつらつに返事をする。




私たちはこの夏、会うのを我慢する代わりに、夜の9時から30分だけ電話をすることにした。

この30分があるから毎日頑張れる。

元々無口な唯くんだから電話口ではほぼ私が喋ってるけど、それでもたまに聞こえる相槌と、唯くんが電話の先にいるということだけで幸せ。


「そうだ、今日塾のお友達に唯くんと花火大会行かないの?て聞かれたよ。行きたいねぇ、お祭り。でも今年は我慢だよね。」


「…うん。我慢。」


「だよね。はー、唯くんの浴衣姿かっこいいんだろうなぁ…」


「浴衣なんて持ってねー」


「ほんと!?じゃあ私が買いたい!貢ぎたい!唯くんに貢ぎたい!!」


「どんな願望?」


「唯くんはやっぱり黒?紺?案外抹茶色とか生成色もありだなー!」


私は唯くんの浴衣姿を妄想しながらあることをひらめいた。


「…そうだ!唯くん!デートしよう!!」


「は?さっき我慢って言ったばっかじゃん」


「妄想で!!」


「…は?」
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