唯くん、大丈夫?
歩くんは、美琴と朝のバスが同じで、美琴に惚れて猛アピールしていたイケメンバンドマンだ。

今も美琴を好きなのかは知らない。

初めて会った時はムカつくクソ野郎だったけど、なんだかんだ縁あって、この夏俺はこのクソ変態ピアス…もとい、歩くんに家庭教師をしてもらっている。

それは歩くんが志望大である明応大学の3年生だと知ったことがきっかけだった。

歩くんの「家庭教師してやろーか」という明らかにその場のノリの提案に、1人で勉強することに限界を感じてた俺は二つ返事で頷いて、今に至る。


ノリでやってくれてる割に教えるのが上手く、俺の苦手なところとかも見抜いてまとめてくれたりして、意外にちゃんと家庭教師してくれてる。

その甲斐あってかこないだの模試は、結構よかった。

まだまだE判定だけど。



風向きが変わって歩くんの吐き出した煙がこちらにかかる。



…甘い。

いちごみるくみたいな匂いがする。




「…それ、スッキリするの?」



俺は手すりに乗せた両腕に自分の顔を埋めて、横目で歩くんを眺めながら聞く。

タバコを咥える横顔ってなんで大人っぽいんだろう。



「しないよ。ニコチン入ってないから」

「ふーん…禁煙?」

「いや、置いてあったから」

「置いてあった?」

「家主が禁煙しようと買ってすぐ飽きたみたい」

「……家主?」

「うん。この家の」



…え?この家って…



俺は振り返って、先ほどまで勉強していた部屋の中を見る。


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