唯くん、大丈夫?

そのままきゅ、と包み込まれて、私は息をのんだ。





「…」





何も言わない唯くんの心臓の音がトクン、トクン、と背中に伝わる。






花火がまたひとつ、ふたつ咲いた。






夏の夜風と唯くんの体温が心地良い。





もう

これは





「……唯くん」



「うん」



「どうしよう」



「うん…?」



「幸せが、過ぎる」




…凄い

今年の夏は思い出づくりなんて諦めてたのに

たった一晩で

今まで過ごしてきたどんな夏よりも一番濃い夏になってしまった




「こんなの、困る」




きっと一生忘れない

この夜空もキラキラの街も

またひとつ咲いては消えていく尊い花火も




「ずるいよ…突然来て、突然、こんな」




背中に感じる唯くんの熱も

強くて優しい腕も 匂いも



きっといつかまた

この夏の夜風と一緒に思い出す



絶対忘れない

一生忘れない






「幸せが過ぎて、帳尻が合わないよ」



また涙がポロッと落ちた。



唯くんが私の顔のすぐ横でハッ、と笑って



「…俺も」



と、小さくつぶやいた。


< 231 / 456 >

この作品をシェア

pagetop