イノセント・ハンド
<警察署>

署内に朝の放送が流れる。

刑事課のフロアでは、珍しく全員が集合し、これまた珍しく朝礼が開催されようとしていた。


課長の富士本 恭介(ふじもと きょうすけ 42歳)が落ち着かない様子で前に立つ。

『え~。おはよう!!』

朝の挨拶などしたことのない課長の勢い余った大声に、誰も対応できず、シラケ返る課内。

『おい、何とか言えよお前ら。全く、挨拶もろくにできねぇのか?』

照れ隠しに悪態をつく。

『ボス、今日は何なんですか?』

『とうとう「これ」ですか?』

若手の宮本 淳一(みやもと じゅんいち 25歳)が首を手で切り、いくらかの笑いをとる。

『バカヤロウ、ジュン。そうだったら、今頃こんなとこにいないさ。ああ面倒くさい。』

少々がさつではあるが、正義感と頭のキレは評判のボスである。

『課長、どうやらお見えになった様ですわ。』

署内一美人刑事の鳳来 咲(ほうらい さき 30歳)が、パソコンで館内モニターを見ながら告げる。


刑事課のドアが開いた。

一同が一斉に、入り口に立つ、黒いサングラスの女性を見る。

その雰囲気を察した彼女。

『お早うございます。遅れて申し訳ございません。』

深く頭を下げた。

『いいからいいから、こっちへ来て。サキ、彼女を。』

迎えに行こうとする鳳来よりも早く、彼女はスティックで足元を探りながら、スタスタと前へ歩いてきた。

一同が戸惑いざわめく。

『静かに! え~、本日から、ここに配属された、姫城 紗夜(ひめしろ さや)君だ。』

ざわめきが大きくなった。

これが、盲目の心理捜査官 紗夜(24歳)のデビューであった。
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