イノセント・ハンド
<二日前>

夕方の6時。

姫城 正明(ひめしろ まさあき)は、自宅マンションのドアを開けた。

『ただいま。』

『おかえり~パパ。』

大好きなパパの帰宅を、7歳の紗夜(さや)が迎える。

『あら、正明さん。早かったのね。』

台所から妻の智代(ともよ)の声がした。

『ああ、今日は何も事件はなく、平和な一日だったよ。』

『丁度よかったわ。今日はビートの散歩がまだなの。少しお願いできない?』

ビートは、智代が溺愛しているミニチュア・ダックスフンドである。

『ああ、いいよ。紗夜、いっしょに行くか?』

『は~い。』

こうして、二人は、夕闇の散歩へと出かけたのである。



マンションの近くには、広い公園があり、おきまりの散歩コースであった。


『おいおいビート、もっとゆっくり行こう。』

紗夜を肩車して歩く正明は、日ごろの運動不足から、すでに呼吸が荒くなっていた。

『全くお前は、気の毒なくらい短い足で、よくもまぁそんなに早く歩けるもんだ。』

『・・・』(ビート)

ふてくされた様な表情で、一瞬立ち止まったビート。

『2本じゃなくて、4本あるから、ビートは早いんだよ。』

『はぁ?いや・・・数じゃ…。な…なるほどね。紗夜はお利口さんだね。』

大好きなお父さんに褒められ、大満足であった。


そうして、散歩の帰り道。

公園のゴミ捨て場に差し掛かった時である。
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