イノセント・ハンド
~夜~


宮本と紗夜はヘトヘトで署へ戻った。

『サヤ。初日からご苦労だったな。もう今日は帰っていいぞ。』

『課長~。俺には一言ないんですか?』

宮本が冗談でぼやく。

『そうだな。ご褒美の品をやろう。』

富士本が段ボールの箱を手渡す。

表には『宮元刑事殿。豊川。』と書いてある。

『ゲッ!マジかよ~。こんな沢山!オマケに漢字間違ってるし。元じゃなくて本だって。』

『昼にとどいたよ。何のテープだ?』

『あ~ら、ジュン。また、いかがわしいモノじゃないわよね?』

咲(さき)が茶化す。

『ち、違いますよ!それに、『また』なんて誤解される様なことを言わないでくださいよ!』

慌てながら紗夜の顔を覗く。

が…相変わらずの無表情である。

『課長。あれは何の騒ぎですか?』

窓の下を見下ろしながら、宮本がつぶやく。

『もう来やがったか。』


表の駐車場に、黒塗りの車が10台ほど入って来た。

『今日の爆発は、幸い怪我人もなくて済んだが、どうやら事態は大事らしい。』

『あの爆発は、確かにイベントを狙ったとは思いますが、誰もいないセットに仕掛けられたもの。人に危害を加える為のものではありませんでしたが?』

紗夜の疑問符。

『だが、その騒ぎで飛び出した警官隊の詰め所から、拳銃が盗まれたんだよ。』

『えぇ!』

『そ~して、その直後。警視庁に、来週の記念イベントへの爆破予告が届いたのよね~。ご丁寧に、警視総監宛にね。』

咲がつまらなそうにつぶやく。


『で…この騒ぎか…。』

『サヤ、捜査本部が敷かれる前に、今日は帰りなさい。』

富士本の予定では、久しぶりに親子で(彼自身はそう思っている)晩飯でもと考えていたのだが、そうはいかなくなった。

『あ、サキさん車ですよね。彼女新宿方面らしいから、載せて行ってあげませんか?』

『あら?そうなの。いいわよ。途中で何か食べましょ。おごるわよ。』

『あ、いえ。新宿は通らないので。それに…悪いから。』

(えっ?何で?)

『でも今朝、新宿駅に…』

『いいからいいから。どこでも送るわよ。さっさと行きましょ。』

宮本の疑問など全く気にせず、咲は今夜の食事の相手ができて喜んでいた。
< 21 / 57 >

この作品をシェア

pagetop