イノセント・ハンド
スローモーションの画像で、母親の左手が、ゆっくり下がる。

『ほら、この手は、どうやら娘の背中へ向かっているようです。』

宮本が画像を止める。

『そんな、まさか娘を!』

『幼児虐待です。』

紗夜がつぶやく。

『あの朝、表裏逆だった靴下を直してあげたのですが、あの子の足には、無数の傷跡がありました。間違いなく、虐待の跡です。』

『そういえば、誘拐騒動のあの子にも、足に傷が・・・』

宮本が思い出してつぶやく。

『はい。あの子も虐待を受けていました。』

紗夜が黒手袋をした右手を握り締める。

『あの母親!いかにも娘が見つかって幸せ、みたいな顔しやがって!』

宮本が怒りをあらわにする。

『あれは、偽装誘拐ね。』

『サキさん。どういうこと?』

『不審に思って、色々と調べてみたの。あの夫婦は、二人そろってギャンブル好きで、大きな借金を抱えてた。死んだ東の父親は、大きな商社の社長で、孫であるあの子をとても可愛がっていたの。恐らく、身代金を要求して、父親から金を盗る計画ね。ほら、これはモールの監視カメラに移った誘拐写真よ。』

写真には、似合わない長髪の男が、黄色いジャンバーの女の子を連れて、モールを出るところがとらえられていた。

すれ違いで入って来た警備員とぶつかり、慌てた様子で頭を下げ、そのまま出て行った。

『下手な変装ね。』

宮本が、その右下に印刷された時刻を見て首をかしげる。

『でも・・・ありえないですよ、サキさん。』

『何よ、ジュン?』

『だってこの時刻には、あの子はもう…私と紗夜さんと一緒にいましたから。』

『ええっ?そうなの!?・・・確かに、まだ変なことがあるのよね。出口で挨拶した警備員は、この少女を見ていないの。彼は一人だったと…』

腕を組んで悩む面々。

ただ一人、紗夜だけは違っていた。

『宮本さん。画像の続きは?』

『あっ、そうだそうだ。』

宮本が再生を押す。

『母親の手は、一旦娘の背中へ行きかけるんですが・・・』

『えっ!?なにコレ?』

咲が声を出す。

『でしょ?突然、母親の手は、まるで何かに引っ張られる様に、そしてそのまま線路へ・・・ドン。』

彼らの脳裏に、あの小さな手の跡が浮かび上がる。

『そんな、バカな?犯人は幽霊ってことなの?』

『共通するのは、幼児虐待と手形・・・か。虐待された子供霊が、子供達を助けているんかな?アッハハ。』

冗談半分で言った宮本の言葉を、誰も否定しなかった。
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