泡沫の瞳
また、腫れてる。
美緒の唇を見てそう思った。
昨日、そこまで腫れていなかった。
腫れてるってより、擦りすぎたのか赤くなっていた。
元々、美緒の唇は赤く柔らかい。
その赤さが余計に赤くなっているから、すぐに腫れていると分かる。
それに加えて泣いたのか、瞼も重そうだ。
いつも二重で大きい目をしてるのに、泣いたせいでいつもの美緒の目じゃない。
それでも俺に笑顔を作ってくる。
はっきりいって、美緒は嘘をつくのが下手で。
落ち込んでいるのに、俺に気づかれないようにするその姿は、弱々しい。
守ってあげたくなる。
笑っているけど泣きそうな顔をしている美緒の頬に、唇を寄せた。ぴくりと反応する美緒は「…あんり……」と甘く呟いてくる。
大丈夫だよ、と、抱き寄せれば、この前よりも細くなった美緒の体つきに、イラつきが増す。
早く虫を退治しないと……。
このままじゃ美緒が汚れる。
「美緒?」
「……、」
「なにかあった? 最近ヘンだよ」
「…そ、そうかな、」
「そうだよ、なんだか何かに怖がっているように見える」
よしよしと、子供をあやす様に頭を撫でれば、「あんり……」と俺の背中に小さな手が回った。
「ん?」
美緒には優しく。
愛している子には…
甘い言葉を吐き続ける。
つーか、美緒以外、女はどうでもいいから。
やっぱり調子がおかしい美緒は、俺に抱きつくだけで何も言わない。
虫…、茅野哲人の名前を出さない。
そろそろ動こうかと、色々考え。
「ちょっと、風邪ひいたのかもしれない…。ごめんね杏李…」
そう言って笑う美緒は、俺の顔を見つめる。
「いいよ、保健室行こう」
その顔が愛おしくまた頬にキスをした。
美緒はどちらかというと大人しい、っていう性格だった。
運動もあまりしなく、本を読んだり、1人で静かに廊下を歩いてたり、騒がしい連中とは違った。
けど、美緒には特別な何かがあった。
透明感があるというか、清潔感があるというか、雰囲気が綺麗だった。
何も知らない白さ。
汚れを知らない、純白。
そんな感じで。
何色にも染まらない、風みたいな、居心地よさ。
だからこそ虫たちは汚したくなる。
例えて言うなら、〝俺色に染めたい〟と思ってしまうのかもしれない。
そんな美緒には沢山の虫たちがやってくる。どれもこれもめんどくさいやつらばかりで。
美緒の雰囲気に一目惚れをしてしまった虫たち…。本当に反吐が出る。
もう美緒は、俺に染まっているのに──
あまり夜、眠らなかったらしい美緒は、保健室のベットの上でウトウトとしながら眠りについた。
その唇にキスをしようとしたけど、これ以上美緒の唇が荒れてはいけないから、その横の頬にキスを落とす。
「大丈夫だよ、美緒。次に目が覚める時には全てが終わってるから」


