泡沫の瞳
«Anri side»


母親譲りのこの顔は、よく昔から「カワイイ系だね」ってよく言われていた。
実の兄とはあまり似ていなく、どちらかというと童顔。目も大きければ、あまり怖そうな顔つきではない。

だからよく「女顔」や、「弱そう」など言われたりもした。
別にそれに対して言われるのは、どちらでも良かった。
俺に被害が無ければ。
勝手に言っておけばいいって感じで。


だけどたまに沸点が低い時がある。
いつもは温厚なのに、怒ってしまう時がある。


これはもしかしたら、血筋なのかもしれない。
父親の友達が、「杏李のとーちゃんは、昔、キレたらめっちゃ怖かった」と言ってたから。


兄は、顔は父親譲りだったけど、俺よりも遥かに優しく性格は母親譲りだった。

そして俺は顔は母親に似て、性格は父親──…真逆。



昔、父親の友達聞いてみた。

「お父さんは学生の頃、どんな風に怖かったの?」と。


その友達は言っていた。
「クズだった」と、笑いながら。


そうなると、俺も〝クズ〟になるのかもしれない。






「ってめぇ、ふ、ふざけんな…」

地面で寝転がっている男の顔面を踏みつけた。変な音がしたけどそのままぐりぐりと靴の裏で鼻辺りを踏む。


「なにが?」


いつもの口調で言えば、「…き、聞いてない」と、舐めたことを言ってくるから、そのまま顔面を蹴った。

鼻からか、舌からか、歯からか血がどくどくと出てくる光景を見て、笑みを浮かべた。


「…聞いてないって、あんたらが言ったんじゃん。あんたの親がヤクザだから言うこと聞かねぇと、殺すぞって。脅してきたのはどっち?」


視線を少しずらせば、白い何かが、そばにあり。
どうやら男の歯が抜けたらしかった。それを見れば、勝手に口元が緩んでいた。


「ねぇ、誰に向かって脅してんの?」

「っ、〜痛っ」

「もう1回、蹴ろうか。全部歯が抜けるまで。何回蹴ればいいかな?楽しみ」


そう言って足を上げようとすれば、「杏李」とツレが名前を呼び、俺の足がとまる。
足を下ろしてそいつを見れば、制服姿でタバコを吸い、どうでも良さそうに俺を見ていた。


「誰が後始末すると思ってる?」


だれって……。

まあ、そう言われたら……。


「…玲臣(れお)?」


と、目の前にいる友人の名前をいえば、玲臣は思いっきりため息をついた。


「じゃあ、あんまり血がでないようにしろよ」

「ふうん?どうやって?」

「こうやって」



玲臣は地面に寝ている誰かのお腹に足を置くと、そこを靴で蹴りつけた。うめき声が聞こえたと思えば、気絶しながらお腹をおさえていた。



ようするに、血を出さず、内臓を壊せということらしい…。
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