たとえ9回生まれ変わっても
Epilogue.


クリスマスが近づくと、毎年思い出す。

ある日突然ふらりとやってきて、行ってしまった君のことを。

「お父さん、これどこに並べればいい?」

「ああ、それはなーー」

日曜日。
わたしは朝早くから店に出ていた。

高校を卒業して、わたしは大学に通いながら、家のパン屋の手伝いをしている。

近くの飲食店に作りたてのパンを卸すことも増えてきて、お父さんが配達に行っている間は、わたしが店番だ。

最近はようやく、苦手な接客にも慣れてきた。

人と向きあうのが苦手だからといつも目を伏せていたけれど、顔をあげるようにしたら、気づくことがたくさんあった。

自分が不安でいっぱいな顔をしていたら、目の前にいる人も不安になる。
笑顔でいれば、人も自然と笑顔になるのだと。

まだまだ見習いだけれど、パンを作るのも、接客も、頑張っていきたいと思う。

「じゃあ蒼乃、配達行ってくるから、よろしくな」

「うん。いってらっしゃい」

店内は朝の光に満ちて、焼きたてのパンの香ばしい匂いにつつまれている。

扉が開いて、人が入ってきた。

「いらっしゃいませ!」

わたしは笑顔で言った。

入ってきたその人を見て、わたしは息を飲んだ。

首に青いマフラーを巻いた、背の高い男の人。

その人は青い空色の目でわたしを見て、やわらかく微笑んだ。



< 157 / 157 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:18

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

灰色の世界で、君に恋をする
松原凛/著

総文字数/130,087

恋愛(純愛)22ページ

三月のバスで待ってる
松原凛/著

総文字数/102,330

恋愛(純愛)155ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
トラウマを抱え、心を閉ざした高校2年生。 【櫻井 深月(さくらい みつき)】 お人好しで、誰にでも優しく接するバスの運転手。 【三住 想太(みすみ そうた)】
恋愛零度。
松原凛/著

総文字数/96,489

恋愛(純愛)265ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
【唯川真白】 訳あって、人を好きになれない高校1年生 【桐生蒼】 訳あって、真白を好きになった高校1年生。 ある日、突然、知らない男子から告白された。 ある理由から人を好きになれない“恋愛低体温症”の真白は、蒼の猛アタックを拒みながら、少しずつ心の変化を感じていく。 しかし、蒼には、悲しい秘密があった……。 『恋愛なんて、面倒くさいだけだから』 『まあ、諦めないけどね』 『君は、なにをそんなに怯えてるの?』 『そのうち、ほかのこと考えられないくらい俺に夢中になるから』 『それはない!』 『そんな全力で拒否しなくても……』

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop