たとえ9回生まれ変わっても
「ーー蒼乃?」
声にはっと我に返る。顔をあげると、紫央が首をかしげて覗き込んでいた。
「どうしたの?」
「……ううん、なんでもない」
わたしは首を振って、靴を脱いでボウリング用のシューズに履き替えた。
井上さんと祐希くんはマイボールに専用のシューズまで持っていて、かなり気合いが入っている。
「ボウリングなんて久しぶりー。ボールどれがいいかな?」
と言いながら吉田さんが選んだのは、15キロのものすごく重いやつだ。
翔くんは17キロ。この2人は重量投げの選手でも目指しているんだろうか。
「森川さんはボウリングとかやる?」
「わたしも久しぶりで……」
そんなやりとりをしながら、わたしと紫央はいちばん軽いボールを選んで、台に乗せた。
「今日は200点目指す!」
「おう!」
井上さんと祐希くんは燃えている。
運の悪いことに、じゃんけんで負けたわたしが最初に投げることになってしまった。
タブレットの画面に表示されたわたしの名前の色が変わる。
『アオノ』登録された名前を見て、また、思い出したくない記憶が湧き上がる。
わたしは台からボールを手に取って、レーンの前に立った。
どくん、と心臓が嫌な音を立てた。
背中に置かれた手。
冷たい笑い声。暗闇。目。口。
どうして、思い出してしまうんだろう。
どうして、忘れられられないんだろう。
辛い記憶や怖い記憶ほど、体に深く刻まれた傷みたいに、ずっと残っている。
ーードン、
とほとんど落とすように、手からボールを離した。
ゴロゴロと音を立てながら、ボールがレーンの上を転がっていく。