ずっと探していた人は
バレンタインデーの1週間前に2人で帰って以来、大橋くんとは全く話していなかった。

バレンタインデーのデートがどうだったのか、花木さんと付き合ったのか、気になることはいっぱいあった。

けれど、私も大橋くんもバレンタインの話題を避けていたことに由夢たちも気づいていたのか、誰も私の前でその話題を出さなかったから、私は知る術がなかった。

私から「バレンタイン、どうだった?」と聞くのも、なんだか変な気がして、聞けなかった。

バレンタインの後から、花木さんが教室へ来る回数はぐんと減ったと思う。

ただ、それは、練習のメニューが通常に戻ったからなのか、大橋くんとうまくいっていないからなのかは、わからなかった。



「加恋はホワイトデー、涼くんと会うんだよね」

体育の授業中、ソフトボールの打順を待っていた私に由夢は尋ねた。

ホワイトデーは明後日に迫っていた。

「うん、ホワイトデーも、涼くんお休み取ってくれるって」

「そっか、じゃあ一緒に過ごすんだね」

由夢は少しだけ笑みを浮かべる。

バレンタインが終わってもうすぐ丸々1か月。

私は自分の左手の薬指を見る。

”加恋がつけたいと思ってくれた時でいいから”

涼くんのその言葉に甘えて、私はまだ指輪をつけられずにいた。

「もう、いいの?」

「なにが?」

由夢の質問の意図がわからず、私は聞き返す。

「大橋くんのこと」

由夢は少し様子をうかがいながら続けた。

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