ずっと探していた人は
「滝川さん」

練習試合後、球場の入り口でもたれかかっていた私に、遠慮気味に声がかけられる。

操作していたスマートフォンの画面から顔を上げると、マウンド上とは打って変わって気の抜けた表情をした大橋くんが、私と少し距離をあけて立っていた。

そんな大橋くんの様子にふふっと笑いながら、私は大橋くんに、ゆっくりと一歩近づく。

「無失点完投、エースデビュー、おめでとう」

私の言葉に大橋くんの顔には笑みが広がる。

「ありがとう、けど、滝川さんのおかげだよ」

滝川さんが叫んでくれた時からずっと、すぐそばに滝川さんがいる気がして、頑張れたよ、と大橋くんが笑う。

「もう体調、大丈夫?」

応援に来てくれるなんて思わなかった、と言う大橋くんに、私はうなずく。

「約束したでしょ、一緒にアイスを食べた時、マウンドに大橋くんが上るときは応援に行くって」

私は大橋くんを見つめる。

「大橋くん、私、大橋くんに伝えないといけないことがある」

「うん」

大橋くんは笑みを残したまま、私と視線を合わす。

「私ね、気づくのが遅くなったけれど」

“大橋くんが、すきだよ。“

私の言葉に、大橋くんは、さっきグラウンドで見せたように大きく目を見開く。

「大橋くんにはもう、大切な人がいるかもしれないけれど、それでもこれだけは伝えておきたかった」

4月、顔を真っ赤にしながら精一杯気持ちを伝えてくれた大橋くんを思い出す。
あれからもうすぐ、1年。

もう受け取ってもらえないかもしれないけれど。気づくのが遅すぎたかもしれないけれど。

それでも、気持ちだけはきちんと届くように、私は祈りながら伝えた。
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