ずっと探していた人は
球場の前にタクシーが着くと同時に、私たちは飛び降りた。

「加恋!急ごう!試合始まっているから!」

背後から聞こえる由夢の声にうなずく暇もなく、私は荷物を持って全速力で球場の中へ向かう。

思いっきり走る由夢と私に、すれ違う人たちは何事かと振返ったけれど、周囲の人たちの目を気にする余裕なんて全くなかった。

“はやく、大橋くんのそばへ行きたい”

走りながら思ったことは、たったそれだけのことだった。


「ターイム!!」

球場に入ってグラウンドを眺めると、ちょうど球審が守備のタイムを宣言したところだった。

一死満塁。

守っていたのは、私たちの高校でー……そしてグラウンドの真ん中に立っているのは、間違いもなく大橋くんだった。

「満塁じゃん……」

荒い息をしている由夢の声が耳に入り、私はかすかにうなずく。

こんなことをしたら後で怒られるかな。迷惑かな。

そんな考えが一瞬頭の中に横切ったけれど、私は思いっきり叫んだ。


「大橋くーん!!!頑張れー!!!」


選手、観客問わず、場内にいるみんなの視線が一気に私に集められる。

それは彼も決して例外ではなく。

大橋くんは私を見つけると、少しの間、目と口を大きく開けてー……そしてゆっくりと笑顔で大きくうなずいた。

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