ずっと探していた人は
「勉強なら、俺としない?」

涼くんの笑顔がどんどん曇る。

「俺、そんなに賢くないけど、2年生の内容ならきっとわかるとおもうよ」

だから、一緒に勉強しよ?

そう言いながら涼くんが、私の手を取る。

「あー、えっと、」

「この前加恋が行きたいって言っていたカフェで勉強しようよ」

食べたいって言っていたシフォンケーキ、買ってあげるよ?

私と視線を合わせながら言う。

「涼くん…………」

シフォンケーキにつられたんじゃない。

ただ涼くんの曇った、寂しそうな笑顔を見るのがつらくて、思わず私はうなずいた。

その時だった。

教室のドアが、ガラガラと音を立てながら開いた。

「あっ」

出てきた本人は、少し気まずそうに私を見ると、視線を下に向けた。

「ごめん」

邪魔をしたとでも思ったのか、トイレに行きたくて、と彼はもごもごと言ってから、涼くんをみてぺこりと頭を下げた。

「大橋くん、勉強、順調?」

なんとも言えない空気をごまかしたくて、私は彼に尋ねた。

「う、うん」

大橋くんは少し目を見開いて答える。

「あ、けど、英語、あとで質問してもいい?」

「わかった」

即答した私に、大橋くんは遠慮気味ににへっと笑った。

“滝川さんの、おかげ!”

トイレのほうへ去っていく大橋くんの背中を見ていると、嬉しそうに断言してくれた様子が自然とよみがえる。

「涼くん、ごめん」

気が付くと私は謝っていて、自分でもハッとした。

「なにが?」

涼くんは確かめるように私に問う。

「一緒に勉強してくれるんだよね?」

私の顔を覗き込む涼くんから視線を逸らす。

「ごめんね、ずっと前から今日はみんなと一緒に勉強する約束をしていたから、やっぱり今日は一緒に帰れない」

涼くんと一緒にいたい。
今日を逃したら、またしばらく会えないかもしれない。
一緒においしいものを食べて、おいしいねって、そんな普通な時間を楽しみたい。

けれどなんとなく、今日はこのままみんなで勉強したいと思った。

先に約束していた義務感とかそんなものじゃなくて、ただなんとなくだけれど。

< 19 / 155 >

この作品をシェア

pagetop