ずっと探していた人は
いつも涼くんとの時間を優先させていた私は、自分がこんな気持ちになったことに戸惑いつつ、ごめんねと頭を下げると、涼くんは静かにわかった、とだけ答えた。

「また、電話するね」

そういって去っていく涼くんの背中に、もう一度ごめんね、と私は心の中でつぶやき、教室へ戻った。


「じゃあ終わるか!」

私たちは最終下校時間を知らせるチャイムと共に、シャーペンを動かす手を止めた。

「今日も頑張った~!」

由夢があくびをしながら言うと、みんなが笑った。

「お前、ちょっと寝てただろ」

中川くんがリュックに荷物を詰めながら由夢を見る。

「え、寝てないよ!」

「うそだ、俺見たぜ」

本当に寝てないよ!と必死に否定する由夢を見て、みんなが笑う。

「その否定の仕方は、絶対寝てたな」

「だから寝てないってば! そういう中川くんこそ寝てたんじゃないの?」

「はあ? 俺はずっとばっちり起きてたぜ」

2人の言い合いは、教室を出て靴箱へ向かっているときも続いていた。

「滝川さん」

2人の言い合いを、後ろから徹と大橋くんと3人で眺めながら歩いていると、隣の大橋くんがためらいがちに私を呼んだ。

「どうしたの?」

視線が合わず、何かあったのかな、と心配する。

「今日も教えてくれて、ありがとう」

「どういたしまして」

いつも欠かさずお礼を伝えてくれる大橋くん。

しかしいつもなら、どういたしまして、と返すと笑ってくれるのに、今日は少し戸惑った様子が伝わってきた。

「なにかあった?」

教室に忘れ物でもしたかな。

心配して顔を覗き込んだ私に、たどたどしく大橋くんは目を合わせた。

「彼氏さん、怒ってなかった?」

一緒に帰ろうって、言ってたでしょ、大橋くんの瞳には不安な色が浮かんでいた。

「聞いてたんだ」

「あ、聞こえただけ!」

盗み聞きしたわけじゃないよ!と必死に言う大橋くんを見て、私はクスクス笑った。

「うん、大丈夫だよ」

「本当に?」

けど俺があの場所で勉強教えてって言ったから、彼氏さん嫌な気持ちにさせちゃったよね。

続けられた大橋くんの言葉を、私は否定する。

「本当にそんなことないよ、大丈夫!」

「それならいいんだけど…………」

まだ不安そうな大橋くんに微笑んで安心させてあげようと思ったとき、靴箱からとても賑やかな声が聞こえてきた。

目の前を歩いていた由夢が振り返ると同時に、私の視界に入ってきたのは、女の子たちに囲まれて楽しそうに笑っている涼くんの姿で。

そして涼くんは、いつも私にしてくれるようにー……
1人の女の子の頭をなでていた。

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