ずっと探していた人は
「涼くん…………」

思わず足を止める。

私の異変に気が付いたのか、隣を歩いていた大橋くんと徹も、足を止めて私を振り返った。

「加恋?」

きっと徹の私を呼ぶ声が聞こえたのだろう。

女の子たちの中心にいた涼くんが、徹に続くように「加恋!」と声を張り上げた。

「涼くん」

ひきつる頬に力を入れて、笑みを作る。

いつもは呼ばれたら笑顔になれるのに。
自然と笑顔になれるのに。
涼くんの声は、笑顔になれる魔法の声なのに。

今は笑顔が作れていないことが自分でもわかるぐらい、顔がこわばっていた。

「今まで勉強してたんだ、お疲れ様」

女の子たちで作られた輪を抜けだし、涼くんが私に近づく。

「俺も教室で勉強していて、いま帰りなんだよ」

そうなんだ、そう答えようとした時、女の子たちがケラケラ笑う。

「涼くん、勉強なんて全くしてなかったじゃん!」

「そうそう、私たちとずっとお喋りしてたじゃん!」

「そんなことないだろ~、ちょっとは勉強しただろ~」

女の子たちのところへ戻り、涼くんは笑いながら女の子たちの頭を叩くフリをする。

この時間まで、ずっと女の子たちに囲まれておしゃべりしてたの?
こんなに大勢の女の子たちに囲まれて?
他の男の子はいなかったの?

私の中で疑問がふつふつと湧き上がる。

私だって、徹たちと一緒にいたから、異性がどうのこうの、ということは言えない立場だけれど。

それでも、こんなにたくさんの女の子たちの中に、男一人でいたの?

しかも勉強じゃなくて? ただおしゃべりをしていたの?

「加恋、一緒に帰らない?」

いつもは嬉しいセリフ。
いつもは全力でうなずくセリフ。

けれど今日の私は、目の前の光景にショックを受けて、固まってしまった。


「あ、すみません、今日は俺が加恋を家まで送る約束しているんっすよ」
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