青に染まる
「さが、ら……?」

 僕に名前を呼ばれたことに、その琥珀色の目をいっぱいに開く青年──白崎幸葵くん。首を絞めていた手の力が緩んだことにより、僕の喉は酸素の吸入を再開する。

 何故忘れてしまっていたのかは、酸素の足りない頭ではまだはっきりと思い出せない。ただ幸葵くんが猶予を与えてくれたため、少し頭に余裕ができた。その間に状況を整理する。

 今僕を押し倒し、先程まで首を絞めていたこの美しい濡れ羽色の髪に琥珀色の瞳を持つ青年。僕の抜け落ちた学生時代の記憶の中にいた、「白崎幸葵」という人物だった。

 僕はまだ完全には思い出していないが、この人物と昔の僕は随分親しかったんだと思う。その親しかった人物を忘れられていたのだ。その精神的な衝撃は察して余りある。

 だが、何故彼は僕の首を絞めたのか。「あのとき」とは一体……。

 考えるうちに、僕の意識は黒く染まった。遠くで、彼の呼ぶ声がした。
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