青に染まる
 匂い、とは。本当に犬なのか我が弟は。

「あ、信じてないだろ?」
「そんなことないよ」
「馬鹿にしてる?」
「あり得ない」
「……なら、いいんだけどさ」

 哀音はまだ納得していなさそうな顔で自分の手元に目線を落とす。右手がくるりと器用にシャープペンシルを回した。

 宿題のプリントをつまらなさそうに見ながら、彼が吐露する。

「……兄貴は、おれだけの兄貴だからな」
「お兄ちゃんはみんなのものです」
「違うよ。どんなに誰かの傍にいたって、おれの血の繋がった兄貴だってことだけは変わらないんだからなってこと」

 随分と複雑なことを考えているようだ。
 確かに血縁という意味での哀音の兄は僕しかいないし、僕の弟もきっと哀音しかいないだろう。それは揺るぎようのない事実だ。だというのに何故、彼は不安そうな顔をするんだか。

 ──世間には、兄弟という形が様々ある。血の繋がりに限らない。兄弟子弟弟子、ヤンキーなんかの兄貴分弟分、義兄弟だってあり得る。哀音が不安がっていたのはもしかしてこれのことなのか?
< 64 / 85 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop