ネコの涙
春の朝。

目覚めるといつも、一番に空を見上げました。

そこから見る空を、桜の花びらが美しく彩っていました。

小さな神社の軒下に、私の家はあって、二人・・・いえ、2匹の妹と暮らしてたのです。

家といっても、ミカンの絵がついた、小さなものです。

あの頃の私は、まだ生まれて半年くらいだったと思います。

私たちが生きていられたのは、ある少女のおかげでした。

その少女が、私が最初に出逢った「イイ人」です。

少女は毎朝、学校と言うところへ向かう途中、ここに寄って、ミルクや食べ物を届けてくれたのです。

少女はいつも一人でした。

時々は、帰りに食べかけのパンをくれることもありました。

「リンリン♪」

背中の四角い箱に、ぶら下がっている、鈴の音が近づいてくると、私たちは、家から身を乗り出して待ち構えました。

『いっぱい食べて、大きく、強くなるんだよ~。』

そう言いながら、食べている私たちを、優しく微笑んで見ていました。

私は、この少女が大好きでした。

毎日、あの鈴の音を待ちわびていたのです。


ある日の夕方、女の子の様子が少し変でした。

背中にあった、四角い箱は無くなっており、可愛い洋服は泥だらけだったのです。

(悲しそう・・・。何があったんだろう。)

私の不思議そうな顔を見てか、女の子はすぐにいつもの笑顔になって、言いました。

『だいじょうぶだよ。ネコちゃん。ちょっと転んじゃったんだ…。ランドセルは無くなっちゃったけど、これはちゃんと持ってるからね。』

広げた小さな掌には、あの鈴がありました。

輪っかは、ちぎれて、少し形も潰れていました。

『これね、お父さんからもらったんだよ。私これが大好き。ネコちゃんたちも好きなんだよね。』

その音がすると、私たちが飛んでくることを知っていました。

『でもね・・・。鳴らなくなっちゃった・・・。ごめんね・・・。』

つぶれたせいで、音がしなくなったのでした。

「ギリッ。」

かすかに、奥歯を噛み締める音が聞こえました。

(どうしたんだろう…。)
私はまだ幼く、鈴を見つめる少女の悲しみを、理解することはできなかったのです。

少しして少女は、いつもの様に私のノドを撫でてくれました。

実は、私のノドにはピンクのアザがあり、そこだけハゲていました。

その「アザ」が、女の子のお気に入りだったのです。
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