ネコの涙
~その夜遅く~

私が覗きに行くと、お父さんは、タバコをふかしながら、ベッドに腰掛けて、考え込んでいました。

『レイか。どうした?』

実は、この時私は、何か嫌な感じがして起きて来たのでした。

『俺は大丈夫だから、美樹のそばにいてやってくれ。』

(何だろう・・・この感じは・・・)

そう思いながらも、私はミキのベッドへと戻ったのです。


それから暫くして、妙な匂いに気付いて、目を覚ましました。

その時は既に手遅れでした。


心労がたたったお父さんは、頭の中が出血し、意識を失ったのです。

タバコの火がベッドから燃え広がり、炎が家中を包んでいました。

(ミキ!ケンジ!大変だ!!)

そう思った時、同じ部屋で寝ていたケンジが、煙にむせて目を覚ましました。

『美樹!起きろ!!。火事だ。早く!!お父さーん!』

廊下は既に炎に包まれており、お父さんがいる1階への道はふさがれていました。

『くそーっ!』

ケンジは、隙間から入ってくる煙を、毛布で一生懸命に防ごうとしました。

しかし、ついにドアから火が燃え上がり、私達は窓へと追いやられたのです。

窓を開けて、少しの間考えていたケンジは、そこでとんでもない行動をとりました。

『美樹、レイ。お前たちは、僕が絶対に守ってやる!』

そう言って、布団で私とミキをくるみ、抱き上げました。

工場とつながった二階は、普通の三階分の高さがあります。

『いくぞ!』

(ケンジ!ダメだ!!)

その瞬間、ケンジはそこから飛び降りたのです。

「ドガッ!!」

ミキが大声で泣き出しました。

布団から抜け出した私は、足元に広がる赤い水たまりに立ち尽くし、それ以上動けませんでした。

(ケンジ…)

私達をかばって背中から固い地面に落ちたケンジは、頭を打って即死の状態だったのです。
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