たぶんもう愛せない
ビーフシチューをゆっくりゆっくりトロ火で混ぜる。
楽しく感じたあのひとときを封じ込めるように。

私の感情も封じ込めるように。



向こうの家で完成させるため鍋ごと他の料理と共にカートに乗せて押していく。

キッチンに入るとお義父さまがリビンングから歩いてきた。
「今日はなんだい?奈緒さんの料理が美味しいから夕食が楽しみになって外食をする気が無くなったよ」

「そう言っていただけて作り甲斐があります。チョコありがとうございました。すごく美味しいけど勿体無くて、でも眺めているだけでも楽しいです」

「ははは、そんなに喜んでもらえるなら渡してよかった」

ガーリックトーストをオーブントースターに入れるとビーフシチューを皿に盛り付けていく。サラダを並べたところでガーリックトーストを取り出してテーブルに置き、家に戻ろうとした時

「奈緒さん、何かあった?」

「え?」

「なんとなく沈んでいるように見えたらから」

「そんな事ないですよ、それでは」

涙が出そうだった。
お義父様はこんな些細な心の揺れまで気がついてくれる。それとも、私の感情が言うことを聞いてくれなくて隠せないの?
あんな奴のために絶対に泣きたくないのに、あの二人がキスをしている映像を思い出してしまう。

今からこんなんじゃ、弥生を追い詰めるなんてできない。
もっと強くなりたい。

キッチンに戻ってくると海が既に帰宅していた

「奈緒?どうした?」

「何が?」
動揺を悟られないようにしないと。

海は頬を手のひらで包むと親指で涙を拭った。

いつの間にか涙がこぼれていた。

海の指はゆっくりと耳たぶを触り
「ピアスどうして外してるの?」

ピアス、あんたのくれたものをつける気がしないだけとは言えないし、迂闊にも涙を流してしまった理由にするのも悪くない。

「せっかくもらったのに、片方を無くしてしまって。探したけど見つからなくて」

海は私を抱きしめる
「だから泣いていたんだ、ピアスなんていくつでも買ってあげるから」

私は海の腕のなかでイヤイヤをする。
「誕生日にもらった物だから価値があるの、家で落としたことは間違いないと思うから、すこしづつ探そうと思ってる」

「そうか、俺も気をつけてみるようにするよ。だから、泣かないで」

「うん」と腕の中で頷いた。


夜、海に求められるまま抱かれた。

この男にとっては、子供を得るためだけの行為。
でも、お前たちの為に子供を産むなんて絶対にしない。

だけど

永遠に会いたい。

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