レールアウト~婚約者に裏切られて彼の弟(生徒)にせまられます~番外編追加



慣れない行為。苦しくて、苦くて、鼻にツンとくる匂いもちょっと……。
べちょべちょになった口の周りを右手で拭って、肩で大きく息を吸って呼吸を整える。

これだけは好きになれない。いつになっても苦手だ。
だけど、大好きで憧れの成央さんのだから音を立てて唇を当てて口元を緩める。



「志保ちゃん、乗って」

「は、はい」

「動いて」

「……っ、はひっ」


一瞬だけ落とされた軽いキスなら、私の前では絶対に吸わな煙草の香りが微かに漂う。
そこから、知らない香水の甘い香りがしても──。

この場所は、この空間は私達だけのもの。




「成央さ、ん、……好っ、好きです」



はじめて会ったのは、私が幼等部の頃だった。
小学生の制服に落ち着いた成央さんが優しい笑顔を向けてくれたのをよく覚えている。
回りの女の子も、彼の事を格好いいと羨ましがっていた。

中等部にあがった時に両親から正式に聞かされた。
将来、私達は結婚するのだと。

私は嬉しかったし、素直に受け入れた。
なんとなくそんな気はしていたし、彼の事を嫌いじゃなかったから。むしろ憧れていたから満更じゃなかったから。


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